No.207 ピアニストの頸椎椎間板ヘルニア 36歳 女性 ピアニスト

症状

3ヶ月前から始まる首~背筋の痛み、右手の痺れを訴えている。ピアノの本番が1カ月後に控えているため多くの練習時間が必要になるが、 最近は演奏中にこの痺れを強く感じるため練習時間が少なくなっているとの事。特に外傷はないが1ヶ月前にMRIで第5頸椎の椎間板ヘルニアが確認されている。

分析

初診時、左右の肩甲骨の上方変位が目立つ。頸椎の触診では中部頸椎の筋緊張が確認され、椎間板ヘルニアによる防御的な緊張と推測される。上肢の神経学的検査では右C6領域の知覚と筋力に若干の低下が見られ、頸椎ROMでは伸展の著しい低下が確認された。肩甲骨の上方変位に伴い上部僧帽筋は癒着しており、椎間板への負担が増加していると考えられる。

図:肩甲骨内側の筋肉に癒着があると、肩の脱力は作れない

施術

治療では椎間板への負担を減らすため、肩甲骨の上方変位を改善させるアプローチを最初に行った。胸椎に対するアジャストメント、短縮している上部僧帽筋と菱形筋に対してはグラストンを使用し癒着をはがすようにアプローチする。本番が1カ月後のため1日おきに来院するように指示をし、最初の5回はこのアプローチを行う。その後はヘルニアが生じている分節に対し前方への持続圧を加え、防御的に緊張を起こしている筋に対して緩和操作を行う。このアプローチを続け2週間程で練習時間は2時間から4時間に増えている。十分な練習時間は得られなかったが本番の直前にも調整を加え、無事に演奏を終える事が出来た。現在治療を開始して3ヶ月経過したが5時間程の練習で軽度の背筋痛は感じるものの、腕の痺れは生じていない。
今回のケースでは筋肉の癒着による肩甲骨の上方変位が原因であったと考えられます。この問題がある上でピアノの演奏をすると頸椎関節への圧迫は強まり、ヘルニアを起こす確率は高くなります。図のように肩甲骨周囲の筋肉は走行上、短縮して癒着すると肩が上がりやすくなります。正しいフォームで演奏をしていればこの様な問題は生じにくいと言えますが、楽器演奏は一般の方とは全く異なった身体の使い方をしているため、適切なフォームであっても首に対する負担は大きいです。肩のこった部分にふれたとき、筋肉の硬さだけでなく筋張った線維状の感触がする場合、同様の癒着が生じている可能性がありますので、そのような方は一度ご相談ください。