No.173 ヴァイオリン演奏と手のしびれ~胸郭出口症候群~ 30歳 女性 ヴァイオリンニスト

症状

本番が近いため、練習量を増やした半年前から徐々に左手のしびれを感じ始めた。最初はヴァイオリン演奏後、肩こりを強く感じるようになり腕は上がりにくい状態であった。徐々に肘から小指にかけてしびれが出現するようになり、最近では腕を上げると痛みがあり、しびれは指先全体まで感じることがある。

分析

初回検査時、姿勢分析では猫背が強く、左の肩甲骨が肩に覆いかぶさるような変位をおこし、腕が前方へ変位をしていた。それに伴い左の上部僧帽筋や小胸筋など肩甲骨を上げる筋群の癒着が見られる。頚椎では左への重心移動が見られ、左側の起立筋や斜角筋の緊張が触診された。神経学的検査では神経根性の障害は見られなかったが、整形学的検査では小胸筋や斜角筋などの過緊張による胸郭出口症候群のテストで陽性を確認。

施術

治療では左肩甲帯の変位と可動性の異常を改善させるため、肩甲上腕関節の関節軸調整と過緊張を起こしている筋群へアプローチ。頚椎にも重心が正中になるように同じく関節軸調整及び、筋群へアプローチ。この治療に加え、経過を見ながら肩甲骨を下げる下部僧帽筋を使うエクササイズを行う。また、ヴァイオリン演奏時のフォームを改善してもらった。 7回の治療でヴァイオリン演奏後のしびれや肩こりはほとんどど感じなくなっており、肩の可動範囲も80%程の回復が見られる。
今回のしびれの原因はヴァイオリンのフォームが起因だと考えられます。本来のヴァイオリンのフォームはでは左脇をしめて肘を内側へ位置させることが大事です。重要なことは下部僧帽筋を使うことです。この働きにより肩甲骨は下制し、肩全体に自然な外旋力が生まれ、体幹と連動した強い左上肢の支えを作ることができるのです。この方のように猫背が強く、肩甲骨が上がっている状態ですと下部僧帽筋を十分に使えないため体幹との連動がなく、肩周りの筋肉に大きな負担をかけてしまいます。本番が近いこともあり肩に力が入りすぎていたことも原因の一つだと思われますが、このフォームの乱れにより肩甲骨回りや胸部、頚部の筋群に過緊張を起こし、胸郭出口症候群と同様な症状を引き起こしていたようです。また、この方は腕を上げた時の痛みも訴えていましたが、原因は同じです。猫背が強くなり肩甲骨の可動域が減少している状態でしたので、肩甲上腕リズムが崩れその結果痛みを出していたと考えられます。
何事にも基本のフォームや姿勢があります。これらは動作を行うにあたって一番効率の良いものであり、最も負担の少ないものです。これが崩れることにより結果さまざまな症状を引き起こします。また、この崩れは自分ではなかなか気づき難く、気づいたときはすでに症状がでていることが多いのです。現在何かの動作で症状が出る方は客観的に自分の姿勢、フォームを見直しカイロプラクターに相談されることをお勧めします。