睡眠が不足すると,私たちはいらいらしたり,眠くなったり,元気がなくなったりして,生活の質が損なわれる。また,場合によっては,生命維持に重大な支障を生じることさえある。睡眠とはこのような状態を生じさせないための機能であり,そのために必要なのであろう。
とりわけ,発達した大脳をもつ私たち人間にとっては,睡眠の適否が質の高い生活を左右することになる。「よりよく生きる」ことは,とりもなおさず,「よりよく眠る」ことなのである。
睡眠がうまくとれないと,大脳の情報処理能力に悪い影響が出る。睡眠不足のとき私たちが感じる不愉快な気分や意欲のなさは,身体ではなくて大脳そのものの機能が低下していて,大脳が休息を要求していることを意味している。
脳科学の面から見るならば,睡眠は脳をもつ生命体に特有の生理機能であり,生存戦略である。脳は,コンピューターのようにいつも同じレベルの活動をつづけることはできない。意識水準はたえずゆらいでいる。だから,質のよい睡眠があってはじめて,脳は高次の情報処理能力を発揮できるのである。
現代は睡眠の重要性が人類史上かつてなかったほどグローバルに認識されている時代である。睡眠は脳機能さらに身体諸機能を健常に保つために必要不可欠であり,生活の質を向上させるための基本となる役割を担っている。現代の高度技術化社会にあって,私たちは生産活動や経済利益を重視するあまり,睡眠を軽視し犠牲にしてきた。そこから大きな恩恵を受けたものの,同時に発生したさまざまな歪みのために深刻な睡眠障害が世界的に増加しつつある。睡眠軽視に起因する大事故も各地で頻発している。




幼児期の習慣であった昼寝は,学齢期になると許されなくなる。社会で働く人々についても同様である。自宅での昼寝はともかく,学校や職場での昼寝や居眠りは悪徳だとする考えがわが国では普遍的である。昼寝を休息の必要性のあらわれとして社会が容認するかどうかで,成人の睡眠パターンに昼寝が組み込まれるかどうかが決まってくる。人間の眠りは生理的な欲求よりも文化的拘束面のほうが優先するのである。
多くの文明国で昼過ぎの眠気に逆らって仕事をすることによって,能率の低下にとどまらず,判断の誤りや交通事故などがこの時間帯に多発している。もちろん,主睡眠期の夜間にむりして働く場合には,さらに深刻なさまざまな問題が発生する。これらの現象は自然の原理を軽視したつけであろう。




性ホルモンとその分泌パターンに性差があり,それを管理する脳の性中枢は睡眠中枢と隣接している.思春期以降で睡眠の性差はかなりはっきりとした形で現れる.
女性には思春期から更年期まで月経周期や妊娠,哺乳の時期がある.最近の研究では成人女性の40%が月経に関連して睡眠に変動があると答えており,その90%以上の人が月経前(黄体期)で睡眠時間が延び,日中の眠気も強まること,この過眠傾向は月経期にも引き続いて認められると報告している.このような結果から,今日では,月経随伴睡眠障害は,月経随伴「過眠」障害と考えられるようになってきた.女性の社会参加がますます増加してゆく現在、周期的におこる「眠気」は労働産業衛生上の大きな課題であり,もちろん女性自身が昼寝の必要性を感じる人も多いと考えられます。この領域の研究に本格的な取り組みがなされることが期待されている。


※昼寝(ひるね)

短時間の睡眠。日中の仮眠(昼寝)は、概日リズムの点からみても合理的であり、適切な仮眠により頭がスッキリする。長時間の仮眠はボンヤリ感が残りやすく、遅い時刻の仮眠は夜に眠りにくくなる。このため、効果的な昼寝は「午後3時前に30分以内」というのが目安となる。

掲載引用文献:日本睡眠学会 http://www.jssr.jp
広島大学総合科学部人間行動研究講座 堀 忠雄先生
前・東京医科歯科大学生体材料工学研究所 井上 昌次郎先生 





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