初診時、左右の肩甲骨の上方変位が目立つ。頸椎の触診では中部頸椎の筋緊張が確認され、椎間板ヘルニアによる防御的な緊張と推測される。上肢の神経学的検査では右C6領域の知覚と筋力に若干の低下が見られ、頸椎ROMでは伸展の著しい低下が確認された。肩甲骨の上方変位により上部僧帽筋も短縮しており、椎間板への負担が増加していると考えられる。
治療では椎間板への負担を減らすため、肩甲骨の上方変位を改善させるアプローチを最初に行った。胸椎に対するアジャストメント、短縮している上部僧帽筋と菱形筋に対してはグラストンを使用し癒着をはがすようにアプローチする。本番が1カ月後のため1日おきに来院するように指示をし、最初の5回はこのアプローチを行う。
その後はヘルニアが生じている分節に対し前方への持続圧を加え、防御的に緊張を起こしている筋に対して緩和操作を行う。このアプローチを続け2週間程で練習時間は2時間から4時間に増えている。その後は下半身からの連動を考慮し、骨盤〜股関節に対してもアプローチを加える。
十分な練習時間は得られなかったが本番の直前にも調整を加え、無事に演奏を終える事が出来た。現在治療を開始して3ヶ月経過したが5時間程の練習で軽度の背筋痛は感じるものの、腕の痺れは生じていない。
今回のケースでは肩甲骨の上方変位が一番の原因であったと考えられます。これは肩甲骨単体で起こるものではなく下半身からの連動が崩れて生じる物ですが、この問題がある上でピアノの演奏をすると頸椎関節への圧迫は強まり、ヘルニアを起こす確率が高くなります。また本番前の追い込み練習は疲労による筋緊張を増強させ、この問題を更に進行させます。正しいフォームで演奏をしていればこの様な疲労は溜まりにくいと言えますが、それでも楽器演奏は一般の方とは全く異なった身体の使い方をしているため、通常では予測されないバランスの乱れが生じやすいです。そのため症状の無い方でも定期的にケアされる事をお勧めします。
演奏者に多い症例
・ピアノ演奏中の腰痛
・ギターの持ち運びによる腰痛
・コントラバス奏者の腰痛
・ヴァイオリン演奏と肩こり
・ピアノ教師の腕のしびれ〜頸椎ヘルニア
・ヴァイオリン演奏と手のしびれ〜胸郭出口症候群
・コントラバス奏者の背部痛
・ピアノ演奏後の手(親指)の痛み 腱鞘炎
・ピアノによる肩甲骨、背中の痛み
(担当:MAIN 鷲見光一)